地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。
岩手県久慈市小袖(こそで) 八戸4号の1、3「陸中野田」
むかしむかしある村に、太郎と次郎というふたごの兄弟がすんでいた。
二人は、海へ出て魚を取る、漁師(りょうし)であってな。太郎と次郎は、かっこうも、顔だちもそっくりでな、見分けがつきにくいのだが、太郎ははたらき者、次郎はなまけ者というのが、村人のひょうばんであったそうな。
秋が深まった大あらしのあった、よく朝のことじゃった。
太郎は、いつもよりもいそいで、海岸にある納屋(なや)へ向かったそうな。漁に使う小船やあみが心配だったからじゃ。
海べにきてみると、納屋はぶじのようであったし、小船も“くい”につながれている。ひと安心した太郎は、おいてあるどうぐが、ぶじであることをねがって、とびらを開けたそうな。
小屋の中を見わたすと、あみや、つりどうぐはぶじのようだった。ところが、すみにおかれた大きなあみの先に、きれいな着物のはしが見えたんだと。
むすめが、ひとりたおれていた。
「なんと、めんこいむすめっ子だろう」
ねむるようにたおれているむすめの顔をのぞきこんだ太郎はいった。
「おい、どうしたんだ。どこからきたんだ」
声をかけ、かたをゆすってみたが、むすめはしんだように動かなかったそうな。
むすめの足はきずついていた。
太郎はな、むすめをせおって家につれて帰り、ねどこに横にしたんじゃが、いつまでも目をさますこともなく、ねむりつづけていたんだと。
それから、なん日もねむっていたそうな。
そのあいだ太郎は、日が上がると漁(りょう)に出かけ、夜になると、ねどこのそばでむすめを見守り、足のほうたいを取りかえていた。
なまけ者の次郎はというと、いつものとおり、漁に出かけるでもなく。日中は、じっと家の中で、ねむっている“めんこいむすめ”の顔を見てすごし、夜になるとさっさと、ねてしまったそうな。
七日もたったある日。太郎が漁に出かけた後の朝のことであった。むすめは目をさましたんじゃ。
「ながい間、ほんとうにありがとうございました。足のきずもだいぶ良くなりましたので、明日には、私の村へ帰ろうと思っています」
と、ねどこの近くにいた次郎に礼をいったそうな。
「・・・・・、おれのよめっ子になってくれねべか」次郎が急に声をかけたんだ。
とつぜんのことに、「明日の夜まで考えさせて下さい」とむすめはいった。
元気になったむすめはな、そうじをし、食事のしたくをしたが、昼間は次郎と顔を合わせ、夜は太郎と話をしていることに気がつかなかったんだと。
そして、やくそくの、つぎの夜のことだ。
「だいぶ元気になりましたね」漁(りょう)からもどった太郎がいうとな。
「きのうのことですが」
「・・・・・」太郎には、なんのことか分からなかった。
「たおれていた私をたすけてくれた、やさしいあなたのおよめさんになります。しかし、やくそくしてほしいことがあります」
「え! 私のおよめさんになってくれるのですか」太郎はびっくりした。
「ええ、ですがやくそくして下さいね。昼の少しの間だけは、私の部屋でゆっくり休ませてください」
太郎にとってはな、とつぜんのことであったが、
「きっと、やくそくします」
といったんだと。
そのよく日も、太郎はいつものように、日がのぼると漁に出かけたんじゃ。
むすめが朝食のしたくを終わるころになると、いつものように、次郎がやっとおきてきた。
次郎とむすめは、いっしょに楽しい食事をしての、なまけ者の次郎は、いつものようにひるねをしてしまったそうな。
むすめは、洗い物やそうじ、せんたくの家事(かじ)を終えると、太郎とのやくそくどおり部屋にもどったそうな。
むすめとのやくそくの返事を聞いていない次郎はな、昼ねから目をさますと、
「あのやくそくはどうなっただろうかなー」
といって、むすめの部屋をのぞきこんだんだと。
すると、横になったむすめの小袖(こそで)のすそから、なにかふしぎなものが見えた。
そーっと、きものをめくってみると、それはきゅうばんのついた、たこの足のようなものだった。そして、そこにはほうたいも見えたんじゃ。
手でふれると、ぬるっとした。
そのときだった、小袖を着たむすめがふり向いた。
「やくそくをまもらなかったなー」
次郎は、そうさけんだおそろしーいむすめの顔?を見て、おどろいた。
それは、たこだったから。
「わーーー、太郎ー、助けてくれ」
といって、いちもくさんに、太郎がいつも漁に出かける浜に向かって走り出したんだと。
「助けてくれー」
小袖(こそで)のむすめが、次郎をおってきたんじゃ。それは、それは、おそろしい顔でな。
「わーーー、むすめがー、たこがー」
次郎はな、海べの作業小屋にかけこむと、戸をしっかりおさえ、すきまから外をみたんだと。
すると、小袖をきたむすめ、いや大きなたこはな、小屋をとおりすぎて、そのまま海に入っっていった。
海のそこへ向かったのだろうかの、次郎には、小袖だけが海の上にうかんでいるように見えたと。
次郎から、話を聞いた太郎はな、夕日が落ちた海べに出て見ると、むすめのきていた小袖(こそで)が、岩の上でゆれているのを見つけたと。
小袖を手にとった太郎の心の中は、うつくしいむすめのすがたでいっぱいになっての、さみしい気持ちであったと。
太郎が海岸でたすけて、つれてきたむすめはな、あらしで海のそこから打ち上げられた、たこの化身(けしん)だったのだろうか、太郎には、しんじられないことだった。
いま、この話がつたわる村の子どもたちは、祭りの日になると、晴れ着として小袖をきるようになっての、やさしい漁師(りょうし)のすむこの村は、「(蛸の)小袖」とよばれているんだとさ
次郎はどうしたかって、それからというもの、けっして、たこは口にしなくなったそうな。