地名からたどる創作民話


 地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。





 大分県玖珠郡玖珠町代太郎(だいたろう)、大分県日田市天瀬町草三郎(くささぶろう)1/25,000地形図大分13号の3「天ケ瀬」
 

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大分県 「代太郎と草三郎」

(だいたろうとくささぶろう)




 豊後(びんご)の国の山おくに、代太郎と草三郎(だいたろうとくささぶろう)というなかのいい、若い木こりがすんでいたそうな。
 二人は、いつもいっしょに仕事をしていたんじゃ。
 朝早くから山へ出ては、えだをはらい、木を切り出すのが仕事でな。ちんじゅの森の祭(まつり)には、二人そろって出かけては、夜おそくまで歌い、おどり、楽しんだそうな。

 そんな、となりどうしの二人には、年おいた父母がいた。
 それぞれのお父さんも、お母さんも代太郎と草三郎がおよめさんをもらって、しあわせくらすことをのぞんでいたんだと。

 そうしたある日のこと。いつものように二人は森へ仕事に出かけた。午前の仕事を終わって、ひと休みしているときのことであった。
 小さなにもつをせおった旅人(たびびと)が、とうげ道を下りてきた。
 小道を下りて、近づいてきたのは、ひとりのむすめであったそうな。

 「こんにちは」
 「どこへ行くのですか、休んでいきませんか」と声をかけると、むすめは二人のそばにこしを下ろし、ぽつりぽつりと話を始めたそうな。

 私は、“ちよ”といい、山むこうの村からやってきたのです。村では、つい先ころ大きながけくずれがあってね、多くの村人とその家がいっしゅんのうちに失われました」

 「みうちはすべてなくなり、ひとりぼっちなってしまいました。私は、さいわいなんをのがれましたが、はげ山のあの村はもうこりごりです。そこで、二度とがけくずれにあわない地をさがして、こうして、この村にやってきたのです」

 話を聞いた代太郎と草三郎は、家でゆっくり休むようにと、さそったそうな。二人にさそわれて、ちょっとこまったちよはな、とりあえず代太郎の家のせわになったんだと。
 その代わり、七日ののちにはな、草三郎の家へせわになることをやくそくしたそうな。

 ところが、やくそくの日がきても代太郎はちよをわたさなかったんだと。それどころか、彼女を部屋にとじこめてしまったんじゃ。

 そいで、おこった草三郎はな、みんなねてしまった夜中に、代太郎の家へ向かい、ちよをうばったんだと。
 しばらくの間、草三郎がちよのせわをしたんだが、やくそくの日がくるとな、こんどは草三郎がちよを“なんど(:ものおきのこと)”にとじこめてしまったそうな。

 そして、こんどは代太郎がうばいにいくことになってな。
 このふた月の間に、そんなことがなんどもくり返されたのさ。
 代太郎も草三郎もそれはそれは、しんせつにしてくれるのだが。このさわぎに、ちよは、ほとほとこまってしまったそうな。

 もっとこまったのは、代太郎(だいたろう)と草三郎(くささぶろう)でな。
 それからというもの、二人はべつべつに仕事をするようになって、山仕事もうまくいかなんだ。
 一人では、木の切り出しも、はこびだしも、うまくできないので、生活も苦しくなったんじゃ。

 こまった二人は、ちよをつれて、ちんじゅの森でそうだんしたそうな。
 「ちよさん、私たちのどちらかをえらんでくれ」と、草三郎がいったと。
 「・・・・・」
 「おれと、草三郎とどちらにするか、きめてくれ」
 代太郎もいったそうな。
 「・・・・・」
 ところがな、ちよは、なかなかへんじをしないどころか、やっと口を開いたときにはこういったんだと。
 「代太郎さん、草三郎さん、こんばん、私はこの神社で休みます。どうぞ、一日だけ考えさせて下さい」

 よくねむれなかったよく朝の、やくそくの時間。二人は、いそいで神社の前にやってきたそうな。
 ところが、神社のとびらはなかなか開かなかったそうな。
 しびれを切らした二人は、「ちよさん、いるのかい」と声をかけながらとびらを開けたんだ。

 そこには、手紙が一枚残されていたんじゃな。
 「代太郎さん、草三郎さん、ながい間ありがとうございました。二人のやさしさはわすれません。とても、二人の友情をこわすことはできません。私は、父や母がすんでいた海の見える村にもどります」とあったんだそうな。

 それで、代太郎も草三郎は、かたを落としたんだ。
 ところが、手紙の最後にはこうもあったそうな。
 「おせわになった二人に、私の気持ちをのこして行きます。なか良くくらして下さい。さようなら。ちよ」

 この手紙を、読み終わったときじゃ。
 神社のおくから、赤子(あかご)の小さななき声が聞こえたんだ。声の方をのぞいてみると、見なれたむすめのきものにくるまれた、小さなふたごの赤子がいたんだと。

 二人はな、むすめのかたみとなった、それはそれは小さな赤子をかかえて、家に帰ったそうな。
 代太郎と草三郎はな、それからというもの小さな赤子のためにいっしょうけんめい、そしてなかよく、山仕事にせいを出したそうな。
 しかし、あのときから、少しだけはなれてすむようになったということさ。

 それにしても、ちよはどこからやってきたのだろうかの。
 そして、なにものだったのだろうかの。
 山の精(せい)が、森をだいじにする二人のもとにおくった、むすめだったのだろうかの。
 それは、だーれにも、わからないことだった。

 今、玖珠町(くすまち)の代太郎と天瀬町(あませまち)の草三郎というところにすむ村人は、協力して山仕事にはげんでいてな。
 みーんな、ちよと二人の子孫(しそん)だということだと。


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