地名からたどる創作民話


 地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。





福島県月舘町、太郎坊山(たろうぼうやま)、福島県飯舘町、大火山(おおひやま)1/25,000地形図福島6号の2「萩平」
 

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福島県 「太郎坊山と大火山」

(たろうぼうやまとおおひやま)



 

 むかしむかし、北国のある森に、太郎坊山(たろうぼうやま)と大火山(おおひやま)という山がならんでいたそうな。
 太郎坊山は、森の多い、みどりが美しい山であった。となりにそびえる大火山はというと、先ごろ山火事にあってな、山の大切な森がもえてしまったんだと。だから、はげ山でな、小さな木しか生えていなかったそうな。

 そんな太郎坊山は、大火山にあうとな、
 「やい、大火山寒いだろう、ハゲ、ハゲ、ハゲのはげ頭、北風ふいて、つめたからろー」などと、ひやかしていたんだと。
 大火山はというとな、太郎坊山のひやかしなど、あいてにしていなかった。
 それでも、かおをあわすたびに、「ハゲ、ハゲ、ハゲのはげ頭、北風ふいて、つめたからろー」と、いわれるもんでな、ついに大火山はかおをまっかにして、太郎坊山にしゃべったんだと。
「やい、太郎坊山、いまにみていろ!
 これから南の国へ行って、森の木を大きくして、また、ここへもどってくるからな」とな。
 そういうと、大火山は「のっし、のっし」と、かけごえをかけて、あせをながしながら南の国へと向かおうとしたんだと。

 それから十年ほどたった。
 太郎坊山がよーく見ると、大火山は、まだ目の前にいた。
 その大火山に向かって、太郎坊山がまたいったそうな。
 「なんだ大火山、まだ、そんなところにいたのか。南の島行きはどうなったんだ」
 「よけいなおせわだ。きっと、南の国へ行って、森の木を大木にして帰ってくるんだ」
 大火山は、十年前とおなじことをしゃべったんだと。
 そののちも大火山はの、太郎坊山とかおをあわすたびに、「南の島行きはどうなったんだ!」といわれつづけた。
 それでも大火山は、「のっし、のっし、のっし」と、かけごえをかけて、大あせをながしながら、南の国へと向かおうとしていたと。

 それから、なん年もたった。
 百年もたっただろうかの。
 心もち動いたようにも見える大火山にむかって、太郎坊山がいつものように、ひやかしたそうな。
 「おーい、大火山。まーだそこにいたのか」
 「よけいなおせわだ!」
 そして、大火山はつづけてしゃべったそうな。
 「ぼくはね、この百年間、君がねているうちに、南の国へ行き、朝になるとまた元の場所に帰っていたんだ!」
 いくらかみどりがこくなった頭をなでながら、じまんそうにしゃべったと。

 「そんなことができるはずはないだろう。
 おれは、大火山のことを、ずーーとここで見ていたんだから。だいいち、南の国へ行ってきたわりに、あたまのみどりは、おれとそんなにかわらないようだな」
 「そうかなあー」と、じしんありそうに大火山がしゃべったと。
 「それじゃあ太郎坊山よ、キミのうら山はどうなっているか、見たことがあるかな?」
 そういわれて、太郎坊山は、あわてて手を後ろにまわしてみた。すると、なにか、ざらざらしたようなかんじだった。前にもどした手にはな、かれえだや土がびっしりついてきた。
 日が当たらない北がわのしゃめんは、すっかりはげ山になってしまっていた。それに、よく見ると南しゃめんの森の木も、すっかり年おいてしまっていたんだと。

 「それなら、キミはどうだというんだ」
 太郎坊山は、大火山のじしんありげなようすを見ながらな、くやしそうにいったそうな。
 「ボクかい、ボクの後ろすがたを見てみたいか?」
 そういうと大火山はな、大きな体を「のっし、のっし」のかけごえで、動かし始めたんだと。二時間もすると、太郎坊山の目に、大火山のせなかが見えたと。

 大火山がくるりと動いたことにもびっくりしたが、もっとおどろいたのは、北がわのしゃめんにりっぱな木が、びっしり生えていることだったそうな。

 では、大火山が、ほんとうにまいばんのように南の国にいって、はげ山をみどりの山にしたのだろうかの。
 これは、森の山たちだけが知っていることで、ないしょのことなのだがの、こっそりほんとうのことをおしえてあげようあげよう。
 じつはな、大火山が「のっし、のっし」のかけごえで、南へ行こう、南へ行こうとがんばっているうちにな、自分の体が少しずつ動くことに気がついたそうな。
 少しずつからだをかいてんできることもな。
 それで、「のっし、のっし」のかけごえで、からだを動かしては、からだをお日さまにまんべんなくあてて、みどりの多い山にしたそうな。
 だがな、太郎坊山には、少しも知らないことだったと。

 それからというもの、この地方のどりょくする山たちはの、年に数ミリメートルずつだが、グルグルと動いていての、北のしゃめんでもみどりが多いのだと。
 そうそう、この森ではの、よるになって耳をすますとの、「のっし、のっし」のかけごえが、たくさんきこえてくるそうじゃ。
 「おおこわ」


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