地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。
兵庫県宍粟市千種町、波賀町境のカンカケ越 (1/25,000地形図姫路9号の2「西河内」)
ある村で、木地(きじ:もっこうさいく)をする常(つね)さんは、仕事で知り合った、東の村の由(よし)じいさんから、
「峠の大岩に願(がん)をかけるとな、なんでもかなえてくれるらしいぞ」
ということを聞いてきたんだと。
「きのうは、いいことを聞いたあ」
常さんは、さっそく、おそなえをもって、その大岩さ、願をかけにいったんだと。
「早く、嫁っ子(よめっこ)がくるように」とね。
そしたら、なん日もしないで、近所のおばばさまが、常さんにと、北の村からよめごをつれてきたんだと。
嫁の名は“おふさ”といってな、とてもいい人だった。
けってんがあるとすれば、しゃべりだしたらとまらない、「いっちゃなんない」といってもすぐしゃべる、おしゃべりだあ。
よめごがきて、ともかくうれしい常さんは、おふささんが、ここさくるまでのことを話したんだと。
「大岩さ願かけるとな、一日もしないうちにそれをかなえてくれたんだー」とな。
それを聞いたおふさもさっそく、峠の大岩に向かったんだと、おそなえ持って。
なにをたのんだかって、もちろん「じょうぶな赤子(あかご)が、さずかるように」ってな。
そしたら、それからふた月もしないうちに、おふさのおなかは、ふくらんできたんだと。
「大岩さんのごりやくは、たいしたもんだなー」と、二人はかんしんしたんだ。
ここまでは、大岩の神さまも、ぼちぼち仕事せばよかった?
ところが、三日もしないうちに、峠の大岩の前は、おそなえ物でいっぱいになった。
おしゃべりのおふさは、おなかがふくらみ始めたその日のうちに、このことを八人にしゃべったの。
おしゃべりおふさから聞いたその八人は、次の日に八人に話したの、そして、三日目にはそのまた八人が、新しい八人に話したの。
さーて、なん人が知ることになったかな。八かける八は、そのまた八かけると???。
ともかく、村じゅうの人たちが知ることになり、それぞれがかってなおねがいごとをしたんだと。
さあ大へん、大岩さんのかげで、ねがいごとをかなえるために、はたらいている神さま?は、どんなに走りまわっても、むりになったんだろうなー。
「もう、やーめた」といったかもしれねな。
ともかく、ねがいがぜんぶかなうことはなくなっての。うんのいいほんの少しの人のねがいだけが、かなうことになってしまったんだと。
峠の大岩には、ねがいがかなった少しの人だけが、感謝の気持ちで、おそなえを持ってたずねるようになったんだと。
こうなると、峠の大岩は、ただの大きな石ころ。
生まれた赤子を手にした常(つね)さん、ちょっと思いだした。
「そういえば、由(よし)じっちゃんは、あの時いってたなー、ご利益(りやく)うすれるから、このことはあんまりみんなに話しちゃなんねぞー」と。
すっかりわすれていた、じっちゃんの言葉を思い出して、常(つね)さんとおふさんは、大わらいしたんだと。
その峠の道はの、初めのころこそ、「願掛け越え(がんかけこえ)」とよばれていたんだがの、しだいに「カンカケ越え」とよばれるようになったそうな。
どうしてかだって?
そさな、大岩にお願いしても、かんがあたるほどにしか、願いがかなわなくなったってことかな。