地名からたどる創作民話


 地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。





広島県庄原市西城町小鳥原(ひととばら)、西城町八鳥(はっとり)(1/25,000地形図高梁13号の2「道後山)
 

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広島県 小鳥原 の美声人

(ひととばらの びせいじん)




 備後(びんご)の山の中に、それは、それは美しい鳥がいるという、うわさがあったと。
 体は、にわとりほどの大きさで、色は七色であってな、声は、うぐいすの八倍も美しい声で、なくのだと。
 鳥の名前は、「八鳥(はっとり)」といった。
 その村の殿(との)さまは、どうしてもこの鳥をつかまえて、ひと目見たいものだと思ったそうな。

 二人の若ものがえらばれ、八鳥をつかまえることが、めいれいされた。
 そして、若者たちは、山に入ったんだ。
 なん日もさがし歩いたある日、美しい声が聞こえてきた。うわさどおりのなんともいえない美しい声、たしかにうぐいすよりもなんばいも美しい声だった。
 しかし、すがたは見えなかった。
  なんとかしてつかまえよう、この目で見ようとして、二人は声の方向に近づいたと。
「ばさ、ばさー」
 いっしゅん見えたすがたは、しっぽをみじかくした、くじゃくのようであった。
 しかし、空をまう八鳥(はっとり)をつかまえることは、よういではなかった。
 若ものたちをわらうように、八鳥は、ふたたび空をまい、やまねこ山の方がくに飛んでいった。
 そこで二人の若ものは考えた。
 ねぐらを見つけ、ね静まったころを、おそえばよいと。

 二人は、夕方になると声をひそめて、やまねこ山のすそを目ざした。そこで、八鳥がもどるのを待つと、かすかに聞こえた鳴き声をたよりに巣(す)を見つけた。
 巣は、小さなどうくつのかべにあったんだと。

 若ものは、夜を待って、あみを手に、しのび足で巣へと向かった。
 そして、静かに進みあみを大きくふって、「鳥をつかまえたー」と思ったときだった。
 「ど、ど−ん」
 さいわい、けがは少なかったが、二人は、どうくつのおくそこに落ちてしまったのだ。
 それでも、八鳥は、あみの中にいた。

 「このどうくつから、どのようにしてはい上がろうかの」
 「入り口の光ははるか遠くに見えるし、鳥のように、まっすぐには上れないし」
 右へ、左へどうくつは続くが、そこはめいろのようで、とても出られそうもない。
 二人は、すっかりとほうにくれてしまった。

 その時であった。
 「どうくつの出口まで案内してあげますから、私をたすけてくださいませんか」
 八鳥の小さな声がしたそうな。

 「このままでは、しんでしまう」
 二人は、八鳥のたすけをかりることにしたんだと。
 「といっても、手ぶらで帰っては、殿さまのおしかりがこわい」
 「どうしたものかの・・・」
 「いい考えがあります」
 「・・・ ・・・」
 八鳥がなにかいいました。
 「うーん、そうするしかないな」

 やくそくができて、八鳥につれられてどうくつをでた二人は、八鳥をかごに入れて、殿さまの前に進んだ。
 「おおー、見ごとな、色あいだのー」
 「だが、うぐいすの八倍も美しいという声が、さっぱり聞こえぬな」殿がいった。

 「それはですね、私たちもこの鳥をつかまえてから、ためしてみたのですが、かごの中ではいっこうになきませんが、手のひらにのせると、みごとな声でなきます」
 「そうか、ではわしの手の上に」
といって、殿(との)が八鳥をかごから出し、手のひらに出した時、美しい声が聞こえた。
 と、思ったしゅんかん八鳥は大空に向かって飛び出したと。

 剣(けん)に、じしんのある殿さまはな、鳥がにげたと思ったとどうじに、かたなをぬいた。
 日の光を受けて、美しい羽がたくさん空からふってきた。しかし、羽を落とした八鳥のすがたは空には見えない。かといって、地面にも、鳥のしがいはない。
「ぶじに帰っただろうか」
「大丈夫だろう」
 二人の若者は、「これで、八鳥とのやくそくをはたしたね」と、小さくいったそうな。

「おしいことをしたのー」
 なにもしらない殿さまは、そういっただけで、二人の若者をしかることはなかったんだと。

 美しい鳥がすんでいた山里は、今八鳥とよばれ、八鳥の羽が、ぱらぱらとふった先には、小さなほこらが立っているんだと。そして、このあたりは小鳥原(ひととばら)とよばれているそうな。
 この村人は、美しい声の持ち主。いや「八鳥」をおいかけていたときの若者のように、小さな声でつぶやくように、じょうひんに話すのだと。


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