地名からたどる創作民話


 地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。



 

島根県仁多郡奥出雲町の鬼(おに)の舌震(おにのしたぶるい)、美女原(びじょはら) (1/25,000地形図高梁14号の4「横田」)
 

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島根県 鬼(おに)の舌震

(おにのしたぶるい)




 むかし、むかしのことだった。
 石見(いわみ)の山おくに美女(びじょ)のすむという里があったんだと。
 それを聞いた、さらにおく山にすむ鬼たちは、
 なんとか、この里の美しいむすめを嫁(よめ)にほしいものだと思っていたそうな。

 ある日、三びき、いや三人かな?ともかく鬼たちは、美女がすむという村、美女平(びじょだいら)へやってきた。
 村の入り口までくると、川でせんたくをする娘のにぎやかな声が聞こえてきた。
 林のかげから、三人のむすめたちを見た鬼たちは、いっそう嫁っ子(よめっこ)にしたいと思うようになったんだと。
 せんたくをおわって、家へもどるむすめたちを見とどけた鬼たちは、夜になったら、それぞれが、ひとりづつむすめをかかえて山につれて行こうと相談したんだ。

 夜がふけると、三びきの鬼は、静かに家にしのびこもうとした。ところが、家へ入ったとたん、大きななべや、かまをけとばしてしまった。

 「どーん、ガランガラン」
 「しまった」
 と、いったときには、もうおそかった。三人むすめたちは、ねどこからぬけ出して、部屋のおくにかたまってふるえていた。
 それだけではない、その前には、大きな“おの”をもったじじさまと、“やっとこ(むかしの、大きなくぎぬき)”を持ったばばさまが、鬼にも負けぬ顔だちで、立ちふさがっていたんだ。

 「なにをしにきただ。むすめに手を出したらどうなるか」
 「すごいばばさまだな、鬼よりおそろしい顔をして」
 鬼たちは、顔を見合わせていったんだと。
 「わるさをする気はない。美しいむすめたちを、嫁(よめ)にもらいたいと思ってきただ」
 鬼たちはいった。

 「嫁に?だと、じょうだんじゃない」
 ばばさまはいった。
 「心も知れない鬼などに、かわいいむすめを嫁(よめ)にやれるもんか」
 「そんなことをいわないでけれ、おれたちはあばれ者ではない」
 「顔はわるいが、心は美しいだ」
 「生まれてこの方、うそなどついたことない」三びきの鬼たちは、口ぐちにいったんだと。

 少し落ちついた、ばばさまは、「フー」といきをつくと、こういった。
 「心やさしくだと、うそなどついたことはないだと、しんじられないのー」
 「そんなことはない」
 「うそはつきません」
 鬼たちは、また口ぐちにいったと。

 「ほんとうだろうね、うそをつかない心やさしい鬼だったら嫁にやろうぞ。しかし、うそつきだったら、このおのでたたき、やっとこで、舌(した)をぬこうぞ」
 じじさまがいい、ばばさまがうなずいた。

 「うそつきではない、あばれものでない、しょうこを見せてもらうじゃないか」
 といいながら、ばばさまは、おとなしいしょうこにといって、三びきを柱にしばりつけたんだと。
 そして、ばばさまが、鬼たちにいったそうな。
 「うそはいけないよ、ほんとうのことをいいな。むすめたちは美人とおもうかね」
 「はい」
 「はーい」
 「はーーい」
 鬼たちは、それぞれ答えた。

 「それでは、むすめたちのばばさまは、わしはどうかね」ばばさまが聞いた。
 「ば、ばばさまもー?、むすめにたがわず美しいだ」
 しぶしぶと鬼たちは、答えたと。

 「うそをいいなさんな、先ほどはなんといった、わしの顔をみて、『鬼よりこわい』といったのはだれだ」
 ばばさまは、おそろしい顔でさらにいった。
 「鬼など、しんじられない、大うそつきだ」とね。
 「しまった、引っかかった」と思ったときは、おそかった。
 ばばさまは、しばりつけた三びきの鬼の前に、大きなやっとこをもちだした。
 「舌(した)を出せー、ぬいてやるー」
 ばばさまの大声に、三びきが三びき?、おそるおそる、舌をだした。
 「ばばさまは、本気だー」
 鬼たちの舌がふるえて、そのいきおいのすごさといったら、山がふるえるほどだったんだと。

 ふるえのとまらない鬼たちは、力を合わせ、しばられたはしらを引きちぎって、ほうほうのていで、山へにげ帰ったのだと。
 それっきり、鬼は里へ顔を出さなくなったそうな。

 それから、この地方では「うそをつくと閻魔(えんま)さまに舌をぬかれる」ではなくて、「うそをつくと、ばばさまに舌をぬかれる」といわれているのだと。

 また、そのときのふるえが、どのくらいすごかったかは、この村のはずれにある「鬼の舌震(おにのしたぶるい)」というところをたずねると、よくわかるそうな。
 もちろん、今も美人がすむ美女原も近くにあるとよ。たずねてみなされ。


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