地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。
長崎県南松浦郡新上五島町若松郷 銅切崎(ずんぎりざき)、虎星山(とらほしやま)
ヘボ島、(1/25,000地形図長崎16号の3・4「佐尾」)
九州(きゅうしゅう)の西に、仙人(せんにん)がすむ島があったんだと。
仙人といえば、それはそれはながい間、おく山やはなれ島で、きびしいしゅぎょうをしてな、どんなこんなんにも、がまんできるんだそうな。
この島にすみついた仙人もな、どこかのはなれ島でしゅぎょうをつんできて、いまでは村人をしあわせにすることを仕事としていたんだと。
ところが、あたたかなこの土地では、人びとが、なにふじゆうなく、くらしているもんで、仙人はしごともなく、しゅぎょうもせずに、ひまをもてあましていたんだな。
ある日、どうくつの中で、いつものようにひるねをしていると。これもまた、どうくつの住人(じゅうにん)であるネズミが、えさをはこんで、うろちょろしていたんだと。
きげんがわるかったのだろうかの、ひるねをじゃまされた仙人は、「うるさーい」とどなったんだと。
「そんなこといわないでください。ここはあなただけのすまいではなく、私たちねずみや、てんじょうにいるコーモリさんのすみかでもあるんですから」
「ほんとうに、仙人なのかな。このじいさまは?」
一ぴきのネズミが、小さな声で、いったのが聞こえたようだったと。
「なんだと、わしがにせもの仙人だというのか」
しわだらけの顔をまっかにして、ネズミたちの上に、もっていた”つえ”をふり下ろそうとした。
「待ってください」
一ぴきの若いネズミがとめたんだ。
「あなたが、仙人であることは、うたがいのないことです。で、ひとつお願いがあります。私たちは、この山おくにすむ大山猫(おおやまねこ)におどされて、こまっています。
まい日のように、なかまがつかまっています。なんとかしていただけませんか」
と、思い切ってたのんでみたんだと。
「うーん、いたずらする大山猫だといっても、しあわせをあたえるのが仕事の私に、猫をころすことはできない」
と、仙人はいったと。
若いネズミは、かまわずにいった。
「仙人さまには、かんたんなことだと思います。里に下りてこないように、大山猫をおどかすだけでもけっこうです。お願いします」
「そうか、おどろかすのだな。わたしのつえで、大山猫のしっぽを切り落とすなどして、こらしめてあげよう」
「さすが仙人(せんにん)さまだ」
と、ネズミたちはおだてたんだと。
「かんたんなことさ」
仙人はやくそくした。
でも、ふだんのひるねのようすを見ていたネズミたちは、それほどきたいしていなかった。
それからいく日かして、仙人は海べの岩山で大山猫を見つけた。すばやく、つえをふりかざし、ねらいをさだめてふり下ろしたんだ。
ところが、大山猫のしっぽどころか、毛の一本にもさわることなく、にげられてしまったんだと。
それどころか、ばか力で大山猫を切ろうとして、岩山を切ってしまった。そして、大切なつえさえもおってしまい、あげくのはてに海へ落ちて、ぬれネズミ?になってしまったんだと。
ふだんのしゅぎょうがたりなくて、ただの人になっていたんだな。
つえももたない、水でよごれた、ただのひげじいさんになってしまった仙人は、とてもネズミ会わす顔はない。
ネズミとのやくそく以上に、力のなさにすっかりじしんをなくした仙人は、どうくつをすて、島をすて、どこかにしゅぎょうのやり直しに出かけたんだそうな。
その後、ネズミたちは大山猫(おおやまねこ)に食べられてしまったのだろうかね。この島にはネズミが少ないのだと。
仙人が、ばか力をふり下ろしたみさきは、銅切崎(ずんぎりざき)とよばれてな。切り落とされた岩も、おきにのこっていて、それはヘボ(仙人)島とよばれているそうな。
そう、そののち仙人はな、しばらくの間、このヘボ(仙人)島にすんでいての、しゅぎょうのかたわらで、そうなんしかけた船や漁師(りょうし)を助けていたんだと。
しゅぎょうした仙人の力が今ものこっているのだろうかね。あらしのときに、この島かげに入るとふしぎと風はやみ、助かることが多いといいつたえられているんだそうな。