地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。
新潟県佐渡市畑野 男神山・女神山(おがみさん約490m・めがみさん593m)(1/25,000地形図長岡9号の1「畑野」)
村のはずれに幸吉(こうきち)という、わかいひゃくしょうがおったそうな。
ある日のこと、よめさんが、ようたしに出かけたこともあり、幸吉はのんびりとはたけしごとをしていたんだ。
「さーて、ひとやすみするか」といっての。
しばらくはたけにすわっているとな。しりの下のほうから、ふしぎな音がきこえてきたんだと。
「女子(おなご)の声かなー、うた声かなー、がっきの音かのー」
幸吉はふしぎに思いながら、はたけの土に耳をちかづけてみると、やっぱりな女子(おなご)の声、うた声もがっきの音もきこえたんだと。
その夜のこと、幸吉は村のよりあいのせきで、この話しをした。
「そーんな、ばかな話はないだろう」
「ひるねでもして、ゆめでも見ていたんだろうて」
でも、幸吉(こうきち)があんまり、しつこくいうもんでな、やさいのたねまきでいそがしいじきだったが、よく日はみんなで幸吉のはたけさいったんだ。
そしての、村の男たちは、じべたに耳をちかづけたんだと。
「おなごの声がきこえる、うた声もきこえる」「美しいおなごの声だ」
「たのしそうだ」
みんなが、つぎつぎと、じべたに耳をつけたしゅんかんのことだった。
「ど、どどー」とじがわれてな、男たちはじのそこに、おちたんだと。
「わー」
「わーああー」
まっくらなそこにおちてみると、ひとりのむすめっこもいなかった。つちいろをした、こわいかおの「地(じ)の男」がいてな、こういうたんだと。
「ちょっとさいくをして、われたちの『地(じ)のはたけ』をたがやすものを、あつめていたのよー」
「さーさ、このくわではたらいてもらおうか」
「これで、おらたちは、らくができるのー」
村の男たちは、「地の男」に強つうー(きつうー)はたらかされたんだと。
はたらき手のいなくなった地上(ちじょう)では、なんとか男たちをたすけ出そうと、女たちがそうだんしたんだと。
大きくひらいたあなのまわりで、うたをうたい、がっきをならし、あまーい声を上げ、にぎやかにはやし立てみたんだって。
「ここは、てんごくじゃ」
「たべものも、さけもある」
「男はいないが、しあわせだー」とね。
これをきいた、「地(じ)の男」は、「ふーーん。たべものも、さけもある、男はいない?」
「われたちのかわわりに、女たちがはたらいてくれるのかのー」
あまりのたのしそうな声やうたに、「地の男」が、ながいはしごをかけて、のそり、のそりとはい出してきた。ひとり、またひとり。
村の女たちは、上がってきた「地の男」をあまいこえでさそっては、村のまん中にある、古いおどうの中につれて行ったんだと。
ところが、そこには少ーし目がつり上がったかおをした、「地(じ)の女」たちがかくれていての、一人のこらず、くびになわをかけて、あなの中へつれもどしたんだと。
そのばんは、たすけられた「村の男」たちも、つれて行かれた「地の男」たちも、それぞれの女たちに、しっかりしぼられたんだと。
「まじめに、しごとせんかー」とね。
それからというもの、ここでの女たちは、「われたちが、しっかりしているから、この村はへいわなんだ」といっているんだと。
はんたいに、男たちはというと、「いっぽひいてな、女たちをかみさまのように、立てているからこそ、この村はしずかなんだ」といっているんだと。
そのことばどおりにな、村さかいにある二つの大きな山は、それぞれ「女神山(めがみさん)」、「男神山(おがみさん)」とよばれていての、女神山のほうがちょっと高く、それも村にむかって、いっぽ前に出ているそうな。
もちろん、今では男も女もはたけしごとに、せいを出しているんだと。
地(じ)などにみみつけねでな。