地名からたどる創作民話


 地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。



大阪府岬町峯地蔵(みねじぞう)1/50,000地形図和歌山15号「和歌山」
 

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大阪府 「峯の地蔵」

(みねのじぞう)




 大阪の南、岬町(みさきまち)というところ。その、となり村へ向かう山道のてっぺんに“峯の地蔵(みねのじぞう)”とよばれる地蔵さまがあってな、こんな話があるそうな。

 むかし、この村の山道のてっぺんに地蔵さまがひっそりと立っていたんだと。
 その地蔵さんは、それはそれは、とてもかなしい顔をしていてな、村人の苦しみをかわりにうけてくれていたんだと。
 村人もこのことをしんじていてな、病(やまい)になると峯の地蔵におねがいし、苦しいことがあると峯の地蔵にかわってもらっていたんだそうな。

 ところがな、みんながこのお地蔵さんにおねがいするもんで、お地蔵さんのその顔はいっそう苦しそうになり、それとはんたいに村人の顔は、しあわせいっぱいの、ほがらかな顔になったんだと。
 こうして、村人はけんこうになり、しあわせなるとな、峯の地蔵のことはすっかりわすれてしまったんだと。

 そんな村にある日、爺(じい)さまのたびびとがやってきて、ものごいをしたんだと。
 村人はな、この爺さまに、ほんの少しの食べ物をあたえたんだ。
 ところがな、爺さまがあらわれたころからな、村人の中に、はきけがして、おなかがいたくなる、はやり病(やまい)が広まったんだと。
 そしたら村人は、「このはやり病は、あの年爺さまのたびびとが持ってきたんだあ」といって、石をなげて爺さまを、おい出したんだと。

 そのころからだあ。
 はやり病の病人たちは、爺さまが苦しんでいる夢を見たのだと。
 みんながみんな、
 「爺さまが苦しんでいるー」
 「河原(かわら)の石をどけてくれー」
と、ゆめを見てうなされたそうだ。

 ふしぎに思った村人はな、みんなで村を流れる川の原にいってみたんだと。
 そうすると、河原の木の下に、見たこともない、大きな石があったんだと。
「ふーん、この石のことだろうかの」
「これを、動かせということだろうかの」
 ゆめを見た村人は、わけもわからずに大石を動かしたんだと。
 その大石をひっくりかえしてみると、くるしそうな顔をした、あの峯の地蔵(みねのじぞう)があらわれたそうな。
 お地蔵さんを引き上げ、きれいに洗うとな、おなかのところに大きなきずがついていたんだと。
 「お地蔵さん。いたかったろうの」
 「こうずいで流れてきたんだろうかの」
 「かんべんしてくんろ!」
 村人はな、地蔵さんを、もとの山道のてっぺんにもどし、今までどおり大切にしたそうじゃ。それからしばらくすると、はやり病はぴったりとおさまったんだと。

 いま、あの峯の地蔵さんはどうなったじゃろうかの。すこしだけ、苦しそうなに顔で立っているじゃろうて。
 岬村(みさきむら)の人びとの気持ちはどうじゃろうかの。きっと、今もしんじん深い、やさしいい人びとでの、しあわせじやろうて。


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