地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。
大分県日田市熊戸(くまんど) 1/25,000地形図熊本2号−2「立門」
むかしむかし、ある村のはずれに、小さなお地蔵(じぞう)さまが、あったそうな。
その村は、まいとし秋のしゅうかくのじきになるとな、畑(はたけ)が熊(くま)にあらされてこまっていたんだと。
村人は、熊から、だいじなさくもつをまもろうとして、熊がだいすきな、はちみつを入れたわなを作り、まちかまえてみたけれど、どうしてもつかまえられなかった。
となり村から、てっぽううちをやとってもみたけれど、うまくにげられてしまった。
そのほかにも、いろいろためしてみたけれど、熊たいじは、どーも、うまくいかなかったんだと。
そんな村に、ほっぺがとっても赤い、かわいいむすめっこが、すんでいたんだ。むすめっこの名前はな、さよといったそうな。
さよは、とてもすなおで、しんじんふかい子でな、村はずれのお地蔵さまを、たいせつにしていたんだと。まい日のように花をそなえては、おまいりをし、まい年のように赤いおべべを作りかえて、地蔵さまにきせていたんだと。
ある日のこと、さよは、村の人びとが畑のさくもつが熊におそわれて、こまっていることをきいたそうな。
それからというもの、さよは、お地蔵さまに、「熊が、村の畑をいたずらしなくなるように」と、おいのりしたんだと。
そうしたある日のこと、さよがいつものように、「お地蔵さま、どうか村の畑を熊からまもってください」というとな。お地蔵さまが、とつぜん、口をきいたそうな。
「さよとかいったな、そんなに村の田や畑を熊からまもりたいか」
さよは、おどろくこともなく、しゃべったと。
「お地蔵さま、そうだあ。
おらあ、いのちにかけても、この村の田や畑を、熊からまもりたいだ」
とな。
そしたら、お地蔵さまが、もういちど口をきいたんだと。
「わしが、山の熊にいいきかせよう。
でもな、その前にかわいいよめっこが、ほしいなー」
とな。
「ほんとうだか。
おらが、お地蔵さまのよめっこになってもいいだか? そーせば、熊は畑をあらさねーのか!」
「そうだ、やくそくするとも。でも、よめにくるときは、おっとうとも、おっかあともすっかりわかれて、一人でここさ来なくちゃな!」
さよは村にかえると、おっとうと、おっかあに、この話をしゃべったそうな。
「おら、お地蔵さまのよめっこになるの!」、そーせば、「熊はいたずらしなくなる」と。
この話をきいた村人は、
「それはちょっと、おかしいな」
「お地蔵さまが、そんなこというだろうか」
などといって、さよが地蔵さまのよめっこになることを、やめさせようとしたんだと。
しかしな、お地蔵さまを心からしんじているさよはな、いくらはんたいしても「お地蔵さまのよめっこになるの!」といって、きかなかったんだと。
あまりにも、さよが強くいうもんで、おっとうと、おっかあはあきらめてな、きいろいはなもようのついた赤いべべをきせて、お地蔵さまのところに、よめにやることにしたんだと。
さよは、やくそくどおり、村はずれのお地蔵さまのところに一人でくると、「おらさよだ。およめにきただ!」と、大声でしゃべったんだと。
すると、お地蔵さまは、うれしそうな声で、こういったそうな。
「そうか、よめにきたか。 よくきてくれたなあ。
それじゃ、ここからすこしのぼったところに立っている村さかいの一本松(いっぽんまつ)の先に、わしの家があるから、そこへ行ってまっててくんろ」
「はい、おら、めし作ってまってるから、お地蔵さま、仕事おわったら、はようにかえってきてな」といって、さよは、いわれた家にむかったんだと。
ゆうがたになってな。
やくそくの家へつながる道には、お地蔵さまの後ろでしゃべっていた、となり村のいたずら者、三次郎(さんじろう)がいたんじゃ。
「しめしめ、きょうからさよが、おらのよめっこだ。
さよは、なんにも知らないで、めし作ってむかえてくれてるはず、うれしいな」
その三次郎が、少しのぼりさかになった道をとぶようにしてあるいているのを、松(まつ)の木のかげから、一とうのすこし年をとった熊がみていたんだと。
「わーー」
それは、あっというまだった。
三次郎は、その熊におそわれてな、しんだように、気をうしなってしまったそうな。
三次郎の顔をなめた熊は、そのときながれてきた、いいにおいにつられて、三次郎のことはそのままに、さよがいる家の方へはしったと。家の前にくると、熊は二本足で立ち上がり、家のとびらをたたいたそうな。
地蔵さまのかえりを、いまか、いまかとまっていたさよは、
「お地蔵さまー、まっていただよ、めしのしたくして!」
といって、いそいで戸をあけた。
そこにいたのは、大きな熊だったが、さよはおどろかなかった。
「そうかあ、お地蔵さまは、熊のうまれかわりだっただか。おら、きょうからお前さんのよめっこだ。なんでもいってけれ。いうこときくだから。
そうだ、ふろもいいぐあいだが、めしにするか、ふろにするか」
ちっともおどろかない、それどころかやさしい声をかけてくれるさよに、熊のほうが、びっくりしたんだと。
それでも熊は、さよがよういしたふろに入り、夕ごはんをたべて、これも、さよがよういした、ねどこで横になった。
少し年をとった熊は、なみだがとまらなくて、とてもねむれなかった。小さいときに、おっかあの熊とはなれてからこれまで、やさしい声をかけてもらったことはいちどもなかった。森のだれかにしんせつにしてもらったこともなかった。ずーっと、ずーっと、ひとりぼっちだった。
さよのやさしさに、かんげきした熊はな、さよが目をさまさないように、赤いほっぺをいちどだけ、しずかになめてから、こっそりとねどこをぬけだして、山さ、かえっていったんだと。
それからというもの、この村では、秋になって熊が戸をたたくとな、
「お地蔵さま、まっていただ、さよは、きょうからおまえさんのよめっこだ。なんでもいってけれ。いうこときくだから」
と、むすめの声でいうと、熊は山にかえって行くんだと。
さよは、どうしたかって。
そうさな。
松の木のちかくで気をうしなってたおれていた、あの三次郎は、よくあさ早くに目をさましてな、のこのこと、さよのねている家へ帰ってきて、それまで熊がねていたねどこに入って、すっかりねこんでしまったんだと。
そのあさ目をさました二人は、なにをしゃべっただろうかな。それは、だーれもしらないことだったが、そのあと二人は、いつまでもなかよく、くらしたんだと。