地図にかかれた地名から想像して作ったお話をおとどけします。
福井県小浜市須縄(すのう)、口田縄(くちたのう)(1/25000地形図:宮津8号の1「小浜」)
福井県小浜市奥田縄(おくたのう) (1/25000地形図:宮津8号の1「小浜」)
この国の中ほどに、”須(す)“、“奥田(おくだ)”、“口田(くちだ)”という三つの村があっての、それぞれ村にはじまんの大滝(たき)があったんだ。
それぞれの村は、「われの村の滝(たき)が、国一番だ」といってじまんしていたんだと。
”須“の村の人がいうには、「われの村の滝)は、水もほうふで高さが3丈2尺(3じょう2しゃく:9メートル60センチほど)もあるだ」。
“奥田”の村の人がいうには、「いや、われの村の滝は、はばも広く高さが3丈2尺もあるだ。」
そうしたら、“口田”のものも、「われの村の滝(たき)は、高さが3丈2尺もあっての、まわりのけしきは、さいこうだ」。
というように、自分の村の滝が国一番だといってゆずらなんだ。
まわりの村のものは、それぞれすきにいわせておけばよいと、あいてにしなかったんだが。
それぞれの村のものは、ほかの村のものは、うそをいっているといってな、なっとくしなかった。
そして、「なんとか、おさばきを!おねがいします」と、おやくしょにうったえたんだと。
おやくしょも、あまりのねっしんさにまけてな、「それでは、はかってみるか」ということになったんだと。
おやくにんが立ちあっての、滝(たき)”をはかってみた。
ところが、いずれの滝(たき)も、3丈2尺ぴったりだったんだと。
「これで、どの滝(たき)も、いずれおとらぬ国一番の高さということだな」と、おやくにんがいったんだと。
ところが、まだなっとくがいかない”奥田“の村の名主(なぬし)さんは、おやくにんにこういって、はかりなおしてくれと、たのんだんだと。
「この前はかった“縄(なわ)”は、めもりがまちがっていたように思う。おらの村の“奥田縄(おくだなわ:おくだのものさしということ)”ではかりなおしてほしい」とね。
それをきいた、ほかの村の名主(なぬし)さんも、同じように「そうだ、おらの村の、”須縄(すなわ)“ではかりなおしてほしい」。口田の名主も、つい「おらの村の“口田縄(くちだなわ)”ではかりなおしてほしい」といってしまったんだと。
やくにんは、知らぬかおをして、こういったそうだ。
「それぞれがさし出す“縄”が正しいから、それではかりなおしてほしいというのだな。わかった、わかった。」
「ぜひ、おねがいします」とそれぞれの名主(なぬし)はいったんだと。
さっそく、村々では、“縄”作った。
そして、それぞれの滝(たき)を、それぞれの“縄”ではかったんだと。そのけっかはというと、
”須の滝(すのたき)“3丈4尺、
“口田の滝(くちだのたき)”3丈5尺、
“奥田の滝(おくだのたき)”3丈3尺
となって、“口田の滝(たき)”が国一番(くにいちばん)ということになったんだと。
これで、“須”と“奥田”の村も、しぶしぶなっとくして、はたけしごとにはげんだそうな。
ところが、秋のしゅうかくになると、おやくにんがやってきて、正しいというそれぞれの“縄(なわ)”で、田をはかりなおしはじめた。
須村の田は“須縄(すのう)”で、
奥田村の田は“奥田縄(おくたのう)”で、
口田村の田は“口田縄(くちたのう)”での。
それが、どうしたかって。
おやくにんの“縄”より、長いあたいがでる“縄(なわ)”を使って、はかりなおした田は、それぞれ、いつもの年より広くなった。
その分だけ、いつもの年よりおおくの年ぐ(:ぜいきんのこと)を、とられることになったんだと。
もちろん、口田の村は、滝(たき)も一番なら、年ぐも一番になってしまった。
こまった名主(なぬし)さんは、おやくにんにあたまを下げて、おねがいしたんだと。
「滝(たき)は、二番でもいいです。年ぐが国一番だけは、かんべんしてください」とね。
おやくにんは、たいへんおこってな、それぞれの名主(なぬし)さんに、おきゅうをすえたんだと。
「自分たちのつごうのいいように、そのときどきに、かってなことをいってはいけない」とね。
それからというもの、田は、正しいおやくしょの“縄”で、はかって年ぐをとることにしたんだと。
それからだろうね、ここの村は、須縄(すのう)、奥田縄(おくたのう)、口田縄(くちたのう)と、よばれるようになったというそうな。
*むかし、測量(そくりょう)につかうものさしは、“縄(なわ)”で、できていたときもあった。